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東京高等裁判所 昭和29年(ネ)432号 判決 1955年6月27日

控訴人 滝上金鉱株式会社

被控訴人 帝国鉱業開発株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金千五百万円及びこれに対する昭和二十六年七月十五日以降右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払うべし。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴人訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方代理人の事実上並びに法律上の陳述は、控訴人訴訟代理人において、原判決添附の「現場引継目録」中、商工省貸与鑿岩機用機械器具類目録以下(記録八九八丁裏三行目以下)は、全部削除して主張する。と述べた外は、原判決事実摘示の記載(別紙「現場引継目録」の記載を含む)と全く同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

理由

第一、被控訴人の本案前の抗弁について判断

被控訴人は、控訴人が当初は原判決添附別紙「現場引継目録」記載の物件(但し鉱業権、土地及び貯礦を除く)につき、金百四十六万四千五百六十四円七十二銭及びこれに対する昭和十六年十月四日以降昭和二十一年四月三十日まで年六分の割合による金員と引換に買戻権を有すること、並びに被控訴人が右物件につき、右金員と引換にこれを昭和十六年十月四日当時の原状に回復して控訴人に引渡すべき債務を有することの確認を求めると主張して、後にこれを改め、被控訴人に対し金千五百万円及びこれに対する昭和二十六年七月十五日以降完済に至るまで年六分の割合による金員の支払を求めると主張し、給付の訴に変更したのは、請求の基礎を変更するものであつて不当であると抗争し、控訴人が右のように請求の趣旨並びにこれに相応して請求原因の一部を変更したことは、本件の記録に徴し明かである(訴状、昭和二十六年五月十七日の口頭弁論調書、同年五月二十六日附請求趣旨訂正書、同日の口頭弁論調書、同年七月十四日附訴状訂正書、同日の準備手続調書、同年十一月十七日の口頭弁論調書参照)けれども、控訴人が右請求変更前に主張するところは、昭和十六年十月四日に控訴人から訴外日本産金株式会社に対し別紙目録記載の物件を売渡す契約を締結した際、同時に右物件について控訴人主張の如く五年内に買戻し得る特約(仮りに然らずとすれば再売買の予約)をしたところ、昭和二十一年四月二十日に控訴人は、右訴外会社を吸収合併して右契約上の地位を承継した被控訴人に対し、買戻の意思表示(仮りに然らずとするも再売買完結の意思表示)をしたから、これにより控訴人の取得した権利の存在並びにこれに対応する被控訴人の債務の存在することの確認を求めるというにあり、又請求変更後に主張するところは、右のように被控訴人は控訴人に対し債務を負担するところ、その債務の履行に代わる損害一億一千万円以上の中の一部千五百万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるというにあつて、その請求の基礎とするところは終始一貫、控訴人対被控訴人間の本件物件買戻若しくは再売買の成立し且つそれによる控訴人の経済上の利益の存否についての紛争関係に外ならぬのであるから、この点には変更なきものというべく、従つて被控訴人の本訴が請求の基礎に変更ありとする抗弁は、採用の限りでない。

第二、本案の請求原因についての判断

一、昭和十六年十月四日控訴会社が訴外日本産金株式会社(以下日本産金と略称する)に対し原判決添附別紙「現場引継目録」に記載の物件権利一切(以下本件物件と略称する)を代金百五十五万三千三百六十四円七十二銭で売却する契約を締結し、同月二十六日本件物件の引渡を了した事実、被告が帝国鉱業開発株式会社法(昭和十四年法律第八十二号)により設立せられた会社であつて、昭和十八年一月ないし四月の間(その月日については当事者間に争があるが、本訴の判断上影響がないから別段この認定はしない)日本産金を吸収合併したことは、当事者間に争がない。

二、而して右本件物件売買契約締結に際し、控訴人と日本産金間に控訴人主張の如く、その後五年内に控訴人において本件物件を買戻し得る特約、若しくは再売買の予約がなされたかどうかを按ずるに、成立に争なき甲第一号証、原審証人北沢武男の証言により成立の認められる甲第九号証、原審における控訴会社代表者本人尋問の結果により成立の認められる甲第十号証、原審証人志達定太郎、同渡辺佳英、同松本彬、同山口六平の各証言中後記措信できない部分を除いた一部、原審証人北沢武男、同山田孝の各証言並びに原審における控訴会社代表者武藤孫市本人尋問の結果(後記措信できない部分を除く)を総合してみると、控訴会社は昭和十二年頃設立せられ、北海道北見国紋別郡滝上村に在る滝上金鉱を経営して来て、昭和十四年頃重要鉱山の指定を受け、当時産金奨励の国策により国庫の産金奨励金も交付せられ、また国策会社たる日本産金から数回に亘り融資を受け、ことに昭和十四、五年の交から建設にとりかかつた百屯処理能力の選鉱場設備等のため、合計百六十万円の融資を得て来たところ、昭和十六年選鉱場が完成して後更に日本産金に運転資金等の融資を求めたけれども、日本産金の方では控訴会社の経営は他の鉱山に比しあまり成績良好とみておらず、その上融資も認定の限度額に達しているからとて拒絶せられ、商工省のあつせんもあつて日本産金に対し、滝上鉱山に関する設備等一切を、従来の借入金百五十五万三千余円を売買代金として、現金の援受なく売渡すこととなつた。しかし控訴会社は当時までにすでに滝上金鉱経営のため二百五十万円以上(内三十万円は北海道庁の補助を受けたが)の投資をしていたのであるし、控訴会社社長武藤孫市は滝上金鉱を高く評価してその経営に深く執着を持ち、日本産金に売渡す交渉も、その前には委託経営を希望したが拒絶せられ、已むなく売買契約をしたといういきさつもあつて、右のように売買契約をしたと云つても全く権利を手離して了うつもりではなく、後日控訴会社の方で資金ができれば、滝上金鉱をそのまま返して貰つて自ら経営したいと希望し、日本産金も控訴会社に対する融資の元利金の回収がつけば、何も滝上金鉱を営利のため自ら経営してゆく必要もなかつたところから、右売買の契約書(甲第一号証)に第十三条として「本契約締結後十年以内に於て本鉱山事業の経営に依り乙(日本産金)の得たる純益金額が第一条の譲渡代金及年六分の割合を以て計算したる利子額の合計額を超過するに至りたるときは甲(控訴会社)は乙に対し鉱業権及附属物件の無償譲渡を求むることを得但し乙が引受後投下したる資金に依り増加したる財産に付ては甲は乙に対しその代金を支払うものとす」、第十四条として「甲は本契約締結後五ケ年以内に於て乙に対し本鉱山の鉱業権及附属物件一切を買戻の趣旨を以て譲渡を求むることを得、前項の売買代金は前条の規定を準用して之を計算す」なる条項をそれぞれ記載したこと、従つて以上のようないきさつから、右第十四条(控訴会社はこの第十四条にもとずき本訴の請求をしているものである)の趣旨は「買戻の趣旨を以つて譲渡を求むることを得」る旨の辞句はあつても、それは民法が不動産の売買につき規定している買戻の要件に適つておらないし、またそのような売買契約解除の権利を留保した意味(控訴人の第一次の主張)ではなく、控訴会社に自ら経営し得る資金面等の都合がつき、元のように自ら権利者となつて経営したければ、売買契約から五年内に前記第十三条に定めると同じ条件の下に、再売買することを一方的に予約したもの(控訴人の第二次の主張)であることが認定できる。原審証人志達定太郎、同渡辺佳英、同松本彬、同山口六平の各証言中には右認定に反する部分があるが、以上の認定に照らし措信し難い。然らばその後前掲の如く日本産金を吸収合併した被控訴人は、右再売買予約の契約当事者たる地位を承継したものというべきである。

三、そして昭和二十一年四月二十日被控訴会社に到達した書面を以て、控訴会社から再売買完結の意思表示をしたこと(控訴人の第二次の主張)は、当事者間に争がないので、この意思表示により控訴人被控訴人間に控訴人主張の如く再売買成立の効果が生じたかどうかの点に判断を進める。

本件物件が売買契約後日本産金に引渡されたが、その後昭和十八年五月頃当時の国策として国により買上げられ、そのうち土地、鉱業権及び貯礦を除いて、他の鉱山に転用譲渡されたことは、当事者争ないところであるが、これらの実情を更に証拠によつて調べてみると、原審証人渡辺誠(第一回)、同高島節男(第一回)の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証の一、二、乙第五号証及び原審証人渋谷政俊(第三回)の証言により真正に成立したと認められる乙第九号証並びに原審証人渋谷政俊(第一回)、同渡辺誠(第一、二回)、同高島節男(第一、二回)、同津田広、同松本彬、同山口六平の各証言を総合すれば、昭和十七年夏頃から戦争遂行の国策上、産金関係の鉱山の重要性が、銅、鉛、亜鉛等直接戦争資材として必要な金属関係の鉱山の方に変移し、政府は閣議決定(昭和十七年十月二十二日及び昭和十八年一月十二日の両回)を以て、金鉱業を整理し、これにより生ずる資材、労務、資金等における余剰を、銅、鉛、亜鉛等の鉱業に有効に活用することとなり、後者の閣議決定で金鉱山は(1) 銅精錬上絶対必要な硅酸鉱として銅乾式精錬所に送鉱するもの、(2) 金に随伴して相当量の銅、鉛、アンチモニー等を産出するものの外は全部、休止又は廃止せしめ、休止せしめたものに対しては、これにより通常生ずべき損失を補償し、廃止せしめたものは補償の範囲を鉱区、坑道、土地、建物、選鉱設備、製錬設備、運搬設備、動力設備等の内、買収の処理を必要とするものとして、その方法は日本産金、または被控訴会社に買取らしむることに依るものとする。整理により生じた資材設備はこれを計画的に銅その他の緊要鉱山に転用する等のことを定め、国家総動員法第十六条の二、同条の三並びに企業整備令に基ずきこれを実施することとしたこと、被控訴会社は昭和十八年五月一日政府から国家総動員法に基ずく総動員業務の協力者に指定せられ、金鉱業者又は金製錬業者でその事業の全部又は一部を休止又は廃止したものに対し、補償をなし、及び右両事業の整備の迅速円滑をはかるため、右補償の実施に先立ち資金の融通をなすことを命ぜられたこと、この命令に基ずき被控訴会社では、命令別記の条件にある金鉱業整備特別会計を設け、その計算をその他の会計から区分して休廃止金鉱業者に対する補償融資事業の実施に当ることとなり、本件滝上金鉱は当時被控訴会社の一般会計で運営されていたが、昭和十八年五月頃政府の整備実施機関によつて、前掲閣議決定の趣旨により廃止鉱山に指定されたこと、当時廃止されぬ金鉱山の方がむしろ尠く、廃止の指定を受けた金鉱山は全国で二百位あつたが、指定を受けると労務資材等の実際の割当も受けられず、事実上操業を続けることができなかつた一面、廃止鉱山の設備はなるべく自発的に政府に提供せしめる方針がとられ、そうしないものに対しては法令の定むるところにより強制的に政府に譲渡せしめるような情勢であつたので、廃止鉱山側ではむしろ喜んで設備の提供をなし、強制されたものは一つもなく、政府に譲渡するに当つても買戻等何等かの条件をつける如きことは実際にできなかつたこと、本件物件もこのような情勢のもとに被控訴会社から自発的に政府に譲渡せられ、被控訴会社の前示特別会計から一般会計へ百一万九千七百三十一円五十一銭の補償名義の振替勘定をしたこと、その直後政府により土地、鉱業権及び貯鉱を除いた本件物件の大部分は解体せられて京都府下和知村粟村鉱業所へ、その余も同様他の銅鉱山等へ転用譲渡せられ、もはや被控訴会社の財産には属せざるものとなつて了つたことを認めることができる。右認定に反する被控訴会社代表者武藤孫市本人尋問の結果は措信できない。

そこで前記再売買完結の意思表示により有効に本件物件について売買成立の効果が生ずるためには、すべて法律行為の有効なるがための要件としてその目的が可能、適法、確定(又は確定し得べきもの)であることを要する点に鑑み、右意思表示の当時被控訴人において、本件物件を控訴人に引渡すことが可能でなくてはならぬわけであるが、その頃には本件物件中、配給品欄(記録八九四丁表十一行目ないし八九八丁表一行目)に記載の物品その他多数の消耗品たる動産の如きは、物資不足の戦前戦後へまたがつての五年間のうちには、消耗されて了つて存在せざるものと推測せられ、その他の物件も前記の如くその大部分が滝上鉱山のある北海道とは遥かに遠隔な京都府等に解体して移され、すでに他の用途に使用されていること、また物件が存在さえすれば被控訴人がこれを買受けて控訴人に引渡しができるように一応考えられるが、現所有者が売渡して呉れるかどうかはその自由意思にかかるところであり、仮りに売渡して呉れるとしても、本件再売買予約のなされた昭和十六年十月当時(このときすでに再売買の代金額の確定し得べきものであつたことは、前述のとおりである)と、その完結の意思表示のあつた昭和二十一年四月当時との貨幣価値の著しい変動、物価の驚異的な値上り状況(これは当裁判所に顕著である)からみて、その代金額は五年前には想像もつかなかつた高価なものであることは必至というべく、別段特別の事情も認められない本件においては、以上の諸点を併せ考えると、本件物件の引渡は社会通念上右再売買完結の意思表示の当時原始的に不能とみとめざるを得ない。そして法律行為の有効要件を阻む原始不能は、その不可抗力に出でたると、当事者何れかの責に出でたるとを問わないのであるから、控訴人が主張するようにこの不能が被控訴人の責任に基ずくかどうかの判断をなすまでもなく、前記再売買完結の意思表示は、当時すでに売買の目的の不能であることのため、再売買成立の効果を生ずるに由なきものというべきである。控訴人が、当時履行は法律上可能であつてただ被控訴人が本件物件を再取得するにつき相当莫大な費用を要するに過ぎないと主張するのは、前示当裁判所の判断と異る見解に出でたもので、採用の限りでない。

尤も本件物件中、土地、鉱業権及び貯礦が終戦後被控訴人から控訴人に返還されたことは、当事者間に争がないが、これは前示の如く粟村鉱業所等へ転用譲渡されなかつたものであり、成立に争ない甲第三号証の一、二、原審証人多田満の証言、原審における控訴会社代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第六ないし八号証、成立に争なき乙第六号証の二、第七号証の一並びに原審証人多田満、原審における控訴会社代表者武藤孫市本人尋問の結果を総合すれば、終戦後被控訴会社は会社経理応急措置法(昭和二十一年八月十五日施行)による特別経理会社となつていたが(このことは控訴人も明かに争わないところである。)控訴人から請求があつたので、別段控訴人が本訴で主張するような買戻権に基ずく請求権とか、或は完結した再売買に基ずく請求権の存在を確認したというわけではなく、適宜の処置として前鉱業権者に売渡すということで、持株会社整理委員会の手続を経由大蔵大臣の許可のもとに、昭和二十三年二月本件鉱業権及び貯礦を代金八万六千八百円(この額は第三者に譲渡するとしても同様の指定額であつた)で、昭和二十四年七月本件土地を代金二千五円五十銭(これは時価であつた)で、いずれも控訴会社に売却したものであることが認められるので、本件物件中右のように被控訴人から控訴人に売戻されたものがあつたとしても、このことは前段認定を覆すに足るものでない。

また契約書たる甲第一号証の第十五条には「乙(日本産金)は本契約に依り甲(控訴会社)より譲受けたる鉱業権及び附属物件一切を更に乙の投資会社に譲渡することを得るものとす但し此の場合に於ては乙は其の投資会社をして前二条に依る譲渡の請求に応ぜしむるよう斡旋するものとす」とあり、本件物件の転用譲渡を受けた前掲粟村鉱業所が同条にいう投資会社であるとして、仮りに控訴会社から直接右粟村鉱業所へ本件物件の譲渡を申込んだ場合、被控訴人が法律上の義務としてではないが、事実上十分骨を折つてやることを約したものと解せられるとしても(原審証人山口六平の証言によれば、かく解するのが相当と認められる)、このことからは前示本件物件が引渡不能となつたとの認定を左右するに足りない。

四、以上は控訴人の本訴請求をその主張する如く、昭和十六年十月四日控訴人と日本産金との間に締結された本件物件再売買の予約に基ずく、その完結の意思表示により成立した再売買の、不履行による損害賠償を求むるもの(第二次の主張)であるとしての判断であるが、仮りに控訴人の主張する事実関係に即して本訴請求を解し、前示再売買予約の履行が被控訴人の責に帰すべき事由によつて履行不能となつたから、その履行に代わる損害の賠償を求める(前示引用した原判決事実摘示中にある原告主張事実の末段参照)というにありとしてみても、前段認定した本件物件が昭和十八年五月頃政府により買上げられ、更に他の鉱山に転用譲渡された実情に照らし考察するに、本件物件がたとえ日本産金に売渡されず控訴会社の財産に属していたとしても、本件においては他に特段の事情の存することも認められぬのであるから、昭和十八年五月頃には前顕閣議決定の実施として、やはり廃止鉱山に指定せられ、且つその設備等はこれを政府に供出して、他の緊要鉱山に転用せらるべき運命にあつたことは、当然推測せらるるところであり、原審証人山口六平の証言によつてもこのことは推認することができる。こう考えてみると被控訴会社が前示の如く、本件物件を自発的に供出したため、それが更に転売され、終戦後にはもはや被控訴人から控訴人に引渡すことが、前記のように不能となつた原因をなすに至つたものとしても、別段被控訴人の責に帰すべき事由による不能だというわけにはゆかない。

控訴人は、本件物件の引渡が履行不能であるとしても、(1) 本件物件の転用は強制的命令によつたわけでなく、仮りに強制的命令によつたものとしても、被控訴人は譲渡条件を自由に定め得たのであるのに、買戻の特約を附する等適当な手段を講じなかつたのは、その責任というべきであり、(2) 仮りに被控訴人が譲渡条件等につき自由裁量の余地を持たなかつたとしても、転用につき控訴人に通知しその了解を得る等の手段を講じなかつたのは、やはり被控訴人に責任がある。(3) また銅精錬上絶対必要な硅酸礦を共に産出する金鉱山は、届出により当然許可せられてその稼業を継続し得たのであつて、滝上鉱山の礦石は硅酸九二・一三パーセントを含有しており、このことは被控訴人も承知していたに拘らず、かかる措置をとらなかつたのは、被控訴人の責任である。と抗争するが、右(1) に主張するところは、当裁判所の前示判断と異なる見解に立つものであつて、採用することはできないし、(2) については、原審における控訴会社代表者本人尋問の結果によると、控訴人は当時栃木県下に銅鉱山を経営していたので、もし控訴人の方へ転用の通知があつたならば、右銅鉱山へ転用を受けることができたであつたろうとの供述部分が存するが、それは主観的な想定であつて、右銅鉱山が当時本件物件の転用を受け得べかりし客観的な情勢等についての証拠は、別段存しないから、かかる見地からする被控訴人に責任ありとの結論は出てこない。(3) については、このような事実を認定できる確たる証拠は存在せず、且つ前掲閣議決定中にある休廃止の運命を免れる金鉱山の要件の一つとしては、単に硅酸礦を産出するのみならず、これを銅精錬上絶対に必要なものとして精錬所へ送礦するものというのであり、本件滝上鉱山が廃止せられたのも、この要件に該当することがなかつたものと推定されるのであるから、未だ右(3) の主張を採つて、前記被控訴人の責に帰すべからざる履行不能であるとの判断を覆すには足りない。

よつて結局控訴人の主張を右四冒頭に掲げたように解してみても、これを認容することはできない。

五、なお控訴人は本件物件の転用譲渡ということが被控訴人の責に帰すべからざるものであつたとしても、被控訴人は代価九十三万二千六百四十五円一銭を得て目的物を譲渡したものであるから、その代償たる利益の現在の評価額即ち右代価の二百倍を請求し得るものであると主張するけれども、前示認定の如く、控訴人主張の買戻権の存在は認むることを得ず再売買完結の意思表示はその効果を生ずるに由ないので再売買は成立せず、且つ再売買予約上の被控訴人の債務も、被控訴人の責に帰すべからざる事由によつて履行不能に帰したものである以上、被控訴人において本件物件の代償たる利益を控訴人に給付しなければならぬような、法律上の義務の発生を認め得る根拠は何もないのであるから、控訴人のこの主張もまた理由なしといわねばならぬ。

以上の次第であるから控訴人の本訴請求は、その他の点の判断をするまでもなく失当として棄却すべきものであり、これと同趣旨に出でた原判決は相当であつて、本件控訴はその理由なきにより、民事訴訟法第三百八十四条によりこれを棄却し、控訴費用の負担につき同法第九十五条、第八十九条を適用して、主文の如く判決する。

(裁判官 斎藤直一 菅野次郎 坂本謁夫)

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